天体観測成功!! [日常]


ついに…ついに…この時がやって来たのだ。



遠くから声が聞こえてハッとして気がつくと

隣には60歳くらいの銀色の髪を生やした女性が優しい目を覗かせて”Now, you're wake up"と言って笑った。

シアトルからの帰り道

辺りは薄暗かった。

私はどうやらバスの中で居眠りをしてしまったらしい。

そしてこのバスは仕事を終え、運転手は最終確認のため、車内を散策している時に私が残っていたのに気づいたらしかった。

これからどうしょうかとあたふたしていると、
「どこで降りるつもりだったの」と聞いてきたので
「○○駅」ですと答えると、
「ならここから近いから送ってってあげるわ、しかもこんな夜に女の子が出歩くのは危ないしね」
と言い、彼女は無線で状況を上に報告し、承諾を得、ハンドルを回してくれた。
なんて親切な運転手なんだ。
以前も同じ状況で居眠りをしてしまったことがあるが、目的地まで近いといえどわざわざ引き戻る運転手なんて普通はいない。
彼女の気遣いに感謝し、素直に甘えることにした。

○○駅は本当にすぐ近くだった。

カーブに差し掛かった時、ウィンドウ越しに月を見た。

満月、だった。

私はほとんど反射的に"moon"と言ってしまった。
それの声が予想外にも大きく、それが運転手の耳にも入り
"yes, there is full moon."
"It's beautiful day huh."
と言ったのが聞こえた。

しかし、私にとってはこれだけの話ではない。
この時をずっと待っていたのだ。
この日を逃してなるものか
「決行は今日!」と私は密かに決めたのだった。

運転手と話をしていた明らかになったのが彼女はノルウェーで生まれ育ったらしい。
彼女がここまで心が豊かなのもノルウェーで培ってきたものではないのかと不思議と納得させられてしまう。
「ノルウェーは白夜なんですよね、私も体験してみたいなぁ」と話をしていても頭の中は今日の決行の事で一杯だった。
白夜にも魅了される所はあるがが今はどうしても月を観たい。しかもただ観るんじゃない。望遠鏡で捕らえたクレーターの隅々まで出来る限り目に焼き付けたいのだ。
そうこうしているうちに駅に着いてしまった。
彼女ともっと話をしたかったが、すでに乗継のバスが出発しようとしていた。
彼女に感謝の言葉と別れを告げ、私は急いで次のバスへと乗り込んだ。
シアトルを歩き周り疲れてはいたが、そんなのはすぐに吹っ飛んだ。

時間は夜の9時を回っていた。
空はやや曇りがかっており、月が観れるか心配ではあったが
学校に着く頃にはその心配をする必要のないくらいには安定していた。

望遠鏡を組み立てるのも以前に比べて手際よく出来るようにはなっていたので、焦らず慎重に手順を進めていく。
月・ファーストウォッチング

まずはファインダーを通して観測出来るポイントを探さなければいけない。
私はその小さな望遠鏡を通して月を観た。
ファインダーから観えた月
同じ月といえど、今まで見ていたのよりも2,3倍も近づいた月に期待は高まる。
押し寄せる高揚感を必至に抑えながらも、本題である鏡筒の中を覗いてみる。
しかし、いくら調節したり、接眼レンズの倍率を低くしても光どころ真っ黒で何も見えない。
ここに来てせっかく腹を据えたというのに以前のようにまた上手くいかないんじゃないのか、望遠鏡が壊れているのかなどという不安が焦りを大きくしていった。
原因は望遠鏡が壊れていたのではなく上手くファインダー調整が出来ていなかったせいだった。説明書には、ちゃんと「まずは昼間のうちに地上の景色(200m程度以上先の目標物を使う)を用いてファインダーを合わせてください。」とちゃんと書かれているのだが、そこまで重要な事ではないだろうと侮っていたのだ。
すでに30分は経とうとしていた。
この頃になると、半ば意地になっていた。
ファーストウォッチングは絶対月だと最初天体観測に失敗した以来どこかでそう決めていたのだ。
絶対今日を逃してなるものか!!
と決意をしたあの時からの言葉を再確認し、ひょっとしたらファインダーがあってないんじゃないのかとようやく気付く。
ファインダーの位置を細かく動かしては接眼レンズへと目を走らせ、ドローチューブを出し入れする。
そういう作業を繰り返していくと
突然目の前に黄色い物体が飛び込んできた。
円を描いたそれが月であるとわかるのに時間はいらなかった。
私はすぐにピントを調節し、その物体の姿が明らかになる。
ついに…ついに…この時がやって来たのだ。
うぉ!という言葉がまず口をついて出た。
それは普段見慣れた月とも、写真や映像から観る月とも違っていた。

これほどまでに愛おしいものは今まで出会ったことがない。
美しいという表現もあるにはあるが、この場では間違っている気がする。

これまでに美しいものに出会う機会は何度かあった。
それらは堂々としていて、なお且つ優雅であった。
果たして彼女はどうか。普段は何気ない顔をして笑っている。
写真や映像といった彼女に取り巻く存在にも何かと愛想を振りまいては笑っているけどもそれらはすべて虚像だったのだ。
決して本質を魅せようとはしない。
それは私達がもったいぶって人に話さないことに少し似ている気がする。
多少なりとも近づくものには「あらごらんなさい」と惜しげもなくそのボディーを披露するのだ。

そういう所がとても愛おしくて一番の魅力なのだと思う。
しかし、こうも思うのだ。
彼女が私に向けている視線というのも何十にも重なった愛嬌の一つなのかもしれない。
もしかしたら、何十億年と生きてきて誰にもすべてを包み隠さず魅せる事をしてこなかったのかもしれない。
そうなら、愛くるしい人でもあるなぁと思う。
10月2日 090.jpg

nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

Specialty's Cafe & B..Crèpe de France ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。